菊地成孔インタビュー

「とらいあんぐるあさひ」10月4日号掲載の菊地成孔さんのインタビューです。

京都以外の方、朝日新聞を宅配購読されていない方のために特別掲載です。


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ジャズ界のカリスマと呼ばれ、音楽家・文筆家として知られる菊地成孔さんが、ペペ・トルメント・アスカラールを率いて初の京都公演を行う。

作家の金原ひとみさんが「菊地さんの音楽って、エロい」と称する官能的な音楽を奏でる一方で、20世紀のジャズ史や芸術史を語る理論家であり、グルメで、格闘技評論家でもあるという、一言で説明できない多彩な顔を持つ菊地さんに新作とコンサートについて伺いました。

舞踏の天才たちに捧ぐニューアルバム

  「(京都は)左京区系といわれるようなカルチャーの先端の音楽が好きな人たちが多いというイメージがあって、ペペトルメントアスカラールというバンドは僕 がやってるユニットの中でも、いちばんストレンジというか、普通のジャズ、タンゴではないし、変わった音楽なので、京都がいいだろう」と今回のツアー先に 選んだという菊地さん。彼のライブやコンサートでは、音楽にマッチした会場選びへのこだわりも有名。

  「(KBSホールの)ステンドグラスも重要ですが、決め手になったのは社交ダンスのパーティのイメージがあること。このバンドの音楽は、クラブというより は、社交ダンスのような音楽なので、アートで、モダンというイメージじゃないところ」ということで選んだのが今回のホール。今月末に発売されるニューアル バムでも、ダンスはひとつのキーワードになっているとのこと。「今までは南米、ヨーロッパというイメージで、漠然とワールドミュージックの融合したストレ ンジオーケストラという感じでしたが、今度は80'sのニューヨーク感。ジャズ、タンゴ、現代音楽というノリだったのを、コンテンポラリーダンスやモダン バレエ、ラテン系ではサルサ、そしてオペラ界から若いソプラノ歌手の林正子さんにも参加していただいてますから、単純にオペラ歌手が入っているというだけ でもびっくりすると思います。今回のアルバムは、これまでのペペの中では一番ダンサブルですし、今年の夏はたくさんの素晴らしい舞踏の天才たちが亡くなっ たので、このアルバムはマイケル・ジャクソンとピナ・バウシュ、マース・カニングハムに捧げるという意味合いも持っています」


京都ならではの2つのお楽しみポイント

  今回のツアーでも京都公演だけはスタンディング・コンサート。今年の春のライブでスタンディングをやってみたら、意外にペペの音楽との相性がよかったの で、今回も採用したとのこと。シニア世代がスタンディングを楽しむにはと聞いてみると「本当のことを言えば、ちょっと軽くお酒でも飲んだりして、座って聴 いていただく方がお薦めですが、ペペはタンゴ風のものもありますし、アフリカ的なものもありますので、アコースティックのオーケストラで、年配の方がご自 分のスキルで踊ったりすると、ちょっと楽しいかなと思います」。また開場から開演までの間に、菊地さん自らがDJを担当。ペペの音楽を創るにあたってイン スパイアされた民族音楽、現代音楽、サルサやタンゴ、サンバなどがミックスされ、「音楽家がDJをやると自分の作品の秘密を解説することになる」という ファンにとっては見逃せない(?)楽しみも用意されています。

 

文化は本当に幼児化しているか?

  昨年の慶應大学での現代芸術についての講義をまとめた近著の「アフロ・ディズニー」では、サイレント映画とレコードをモチーフに、20世紀の文化が幼児化 したのは何故かというテーマを考察。「幼児化しているといわれているけれども、ホントにしているのかっていうところがスタートでした。20世紀いっぱいで 平均寿命も伸び、平均年齢も上がったのに、精神年齢だけが下がってるっていうイメージがありますが、下がってるかどうかは不確定です。もし下がってるんだ としたらこれが原因じゃないの?という仮説を並べてみたんです。オペラとか参加型の社会性のある総合芸術が、20世紀になってマスメディアができて、音と 視覚が別々に発達していく、その先兵がサイレント映画とレコードだった。そして視聴覚が分断したものが映画というメディアの中でつながるんだという20世 紀史です。実は発達学やいろんな学問が、マスメディアや音を分析してきたけど、僕らが考えたのは逆でマスメディアが出来たことで、発達学のアイデアとか、 人が幼児化してきたってアイデアが出てきたんじゃないかっていう立場から考えてます」


大人を演じる心意気で世の中が変わる

  では、菊地さんが考える21世紀の大人の文化とはと伺うと「大人であるってことは演技だと思うんですよね、僕は愛も演技だと思ってて、演技だというと、演 技じゃない本物、真実があって、それに対して嘘みたいなものと思われるんですけど、人間の営みの大半は演技で、人は演じないと生きていけない。今まで大人 というのは、人間の本質が変わるようなイメージで捉えてきてますが、お芝居として大人があると考えれば、必然的に大人は増えると思うんですよね。大人が増 えたら世の中も変わると思ってます。ただその演技は、命がけで一生やるものだし、お金もかかるし、美意識も必要で、人間の行為としては高級なものだといえ ます」


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菊地成孔とペペ・トルメント・アスカラール京都公演

11月17日(火) 19:30(開場18:30)

KBSホール(上京区烏丸上長者町  KBS京都放送会館1F)

前売4,000円 当日5,000円(スタンディング/整理番号付)

お問い合わせ 京都音協 TEL075-211-0261


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新作アルバム「New York Hell Sonic Ballet」

菊地成孔とペペ・トルメント・アスカラール

「南米のエリザベステイラー」「野生の思考」「記憶喪失学」に続く第4作。80'sのNYCをイメージに、ノーニューヨークとサルサとモダンバレエに通じる作品となつているとのこと。

10月28日発売(ewe)

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